三輪総領事ご帰国 お土産のコーヒーと生産地の農協、地域社会の背景

 在ダバオ総領事館の三輪芳明総領事が2月8日午前7時45分の便でダバオを発たれます。

ダバオ市のみならずミンダナオの多くのフィリピン人、在留邦人から愛される方でした。

領事館を総領事館への格上げに尽力された方でした。お人柄を感じたのは、2019年10月ダバオ日本人コミュニティー100周年事業の時。ダバオ市のショッピングモールSM Lanangにて各種イベントが催されていましたが、三輪総領事は朝、人もまだ少ない時間から最前列で観られ、また各ブースも丁寧に回っておられました。些細なことにも手を抜かない親切で気を遣われる姿に素晴らしい方だなという印象を持ちました。

また、前任地のフィンランドに関する造詣が深く論文も発表されています。私も知らなかったのですが、北欧の小国ながらロシアと1000kmの国境を接する国で緊張の中で常に難しい舵取りを強いられ政治意識は高い。ノキアを中心にオウル市では産業が集積しています。それら培われた視点からミンダナオ島を俯瞰され、北のカガヤン・デ・オロ市、南のダバオ市を拠点に成長センターを構想され精力的にフィリピンや日本の関係者と連携を取り合っておられました。

個人的な思い出を以下に写真とともに記します。中でもMt. Apo視察で7kmほど坂道を上り下りしましたが、ご健脚で息が切れる様子がない。毎朝5時にジョギングをしておられるとのことで、体力には舌を巻く思いでした。

https://www.davao.ph.emb-japan.go.jp/itpr_ja/100davaojapanese.jp.html

下に、個人的に三輪総領事との思い出、印象に残ったことを記します。

BACOFA農協を訪問。
お土産に白い恋人を頂きました。
BACOFA農協マリビック組合長の農園を視察


中部ミンダナオ大学の学長を表敬。

コーヒー生産者団体MILALITTRAのリーダーとタラアンディグ族の部族長と話し込んでいる三輪総領事。Mt. Kalatunganの麓、ブキドノン州タラカグ町にて。


Mt. Kitanglad山中で話し込んでいる三輪総領事。
ブキドノン州ランタパン町にて。

フィリピンリーガルサポートセンター(PNLSC)の猪俣氏(右)の話を公邸で伺いました。
三輪総領事の話を聞いて引き出す力と謙虚な人柄に感銘を受けました。

一度、カガヤン・デ・オロ市やフィリピン政府関係者とけいはんな学研都市の関係者のセミナーに通訳として参加させて頂きました。カガヤン・デ・オロ市長の三輪総領事に対する信頼が厚く、帰国を残念がっておられました。

コーヒーを50袋(100Gx50個)作成。日本にお土産にされるとのこと。


コーヒーを50袋作成

選別者Ms. Chaindelle Camajalan(マリビックの親類)

選別者Ms. Teresita Dubria(マリビックの義理母)



◆商品が生産された地域社会の説明◆ 

BACOFA MIXナチュラル  
ミンダナオ島アポ山のコーヒー(ナチュラル)の特長 
1)甘味、2)明るい酸味、3)ワインのような発酵感 4)クリアさ  

BACOFA Mix ナチュラルは以上の特長を強く表現しています。
まず産地のナチュラルに共通する特長を知って頂くためにお勧めしています。 

プロファイル 
生産地:ミンダナオ島南ダバオ州バンサラン町アポ山 
標高:1300m~1600m  生産者:BACOFA農協 
品種:アラビカ種カティモール 精製:ナチュラル(果実をつけたまま約1ヶ月間天日乾燥させます) 
収穫:2021年10~11月 
BACOFA Coop (以後「農協」)
1) 価値規範 

品質 この農協の特長は品質重視です。
2016年3月に在庫が積み上がっているのを見て「販路を見つけることが、農協(=住民)の最大のニーズ、そのために品質を高めて日本で売ってみよう」と考えました。現地と日本を行き来し、品質向上に努めました。

以前はコーヒーの品質に無頓着。ただ生産物をP135/KGで売っていた。そこで、選別したコーヒーを当時としては高値(P200/KG)で買い上げたり、KeyコーヒーOBの方に現地で選別トレーニングを行って頂いたりしました。

2016年11月の第2回フィリピンコーヒー会議(於Baguio市)にてフィリピン国で初めての品評会が開催されMs. Marivic Dubria (以後「マリビック」)のコーヒーが優勝。以後、農協には待っていても注文が入るようになりマーケティングが楽になりました。品質重視も浸透していった。現在はフィリピン国コーヒー品評会(Philippines Coffee Quality Competition)において毎年上位入賞する農家を輩出。

2018年は優勝、6位
2019年優勝、4位、6位、7位、10位
2021年優勝、2位、3位、4位、6位、7位

「スペシャルティコーヒーを作って当たり前」という偏った(?)価値基準が内在化されている。基準を落とすのは簡単なので、高い基準を維持してもらいたい。

またバイヤーの質問に対し正直答える規範も内在化されつつある。品質に見合わないと、送り返してきたバイヤーもあったようで鍛えられてきています。

集団的リーダーシップ 現組合長のマリビックが、他の役員に仕事を割り振り、役員達の能力が向上。マリビックが自分以外に高品質のコーヒーが作れる農家を育てようとしていることも見て取れます。BACOFA Coopに限らず、他団体の参加も望んでおりコーヒー産業全体の繁栄を考えて望んでいるように見える。そこには、自分が美味しいコーヒー作りでは一番になれるという自信の裏付けがあってのものですが。特権を独占すると妬まれるので、それを上手に避けながら組織運営を行っています。

住民参加・平等・公平 過去数年間、平等の観点は、脇に置いておいて品質向上を優先した。ビジネス上、品質向上に熱心な農家により多くの時間を割き、そうでない農家は後回しにせざるを得なかった。

2) 能力   
ミーティング
組織活動が高低は、ミーティングへの参加率である程度正確に把握出来る。
2016~2018年頃には役員の定例会は開催されていなかった。
現在、定例会は毎月第一土曜日に開催、役員の出席率は高い。
年一回の総会も開催され過半数が出席(現在組合員数94名)。

2020年8月7日総会
左から、書紀アモール、組合長マリビック、Bookkeeper マリテス 

2020年8月7日総会参加者

定例会において、お金の出入りは毎月報告される。
キャッシャーとブックキーパーの尽力で総会では一年を通した会計報告も行われる。

3) 資源  
農業省、貿易産業省、NGOなどからの供与により以下を所有。
デハラー(脱殻機)
パルパー
焙煎機(薪)、焙煎機(電気)
乾燥ベッド
倉庫(地震で全壊)
事務所
水洗式のタンクは小型1台
等を所有。

課題
1)選別、乾燥を集中して行う共有地がない。
2)安定したWIFIが無いため、バイヤーにタイムリーに返事が出来ないこと。
3)乾燥ベッドの不足(カカオ農協で借りたりしている)
  
 農協-行政の関係 
 1) DA (農業省)
  苗木等生産関連、収穫後処理の資機材を供与

 2) DTI(貿易産業省) 
  収穫後処理の資機材やマーケティングに関するセミナーを実施

3)DPWH (公共事業道路省)
  ダバオ地方開発協議会からの提案で農村道路を建設中。
  (新型コロナのため一時中断、再開)

行政とは良好な関係を維持
比較的、高いレベルの行政(州や地方レベル)との連携が多いことが特長。

生産において頑張れば、行政が開発のパートナーとして認知し、さらには、州の地方の誇りだとも発言してくれ行政とは良好。

 農協-市場の関係 
1)販売先
  2016年2、3の販売先しかなかった。
  2020年28の販売先がある。→経営安定化。

2)銀行からの融資
  2019年(利息15%近く!)、2020年(利息5%)には銀行融資を受けた。
  一昨年よりも条件の良い銀行を見つけてきた点、良くなっています。

3)2021年
  組合員が生命保険に加入出来るようになった。
  掛け金が年数百円、死亡時にもらえる金額が6万円程度でいくつかのプランが各自選べるとのこと。

販路が以前は2,3しかなく、1つの大口バイヤーが買取をストップしてしまったら打撃を受けるという不安定さがった。近年は取引先が増え、収入が安定した。

また、「ナチュラルを全部独占的に購入させてくれ(台湾業者)」、「80トンすべて買う(アメリカ業者)」「独占販売権が欲しい(中東へ輸出するフィリピン業者)にマリビックや農協幹部は「No」と返答しています。自分たちの能力や権利、責任を見極めて、アメリカにNoというなんてすごいと思いませんか?

 環境
  

コーヒー生豆の単価が上がり、野菜からコーヒー栽培に転換する農家が増えた。
結果、山に緑が増えた。

年に3,4回耕作する野菜よりもコーヒー樹ベースのアグロフォレストリーの方が土壌保全効果が高い。

なお、コーヒーに肥料をまいたり害虫防御のために農薬を使うことはまずありません。資金に余裕がないからです。


2019年

土壌保全のため、雑草を低密度で残す農法を実行する農家が2019年から現れた。
草刈機を貸与したために、実行が可能になった。
口でアドバイスをしても、誰も聞いてくれなかったわけですが、具体的に問題を解決する手立てを実行したら、農民も行動に変化を起こした。


農民の生活とSDGs
さて、ミンダナオ島アポ山のコーヒーに関する活動は17のSDGs(持続可能な社会を実現するゴール)のうち特に下記に関わっています。

貧困:野菜農家に対する貧困の罠である高利貸し(月15~20%)からの自立。
   「家を増築した」「財布にお金が入っている」「おかずが良くなった」など農民の収入が増えたことが観察されます。
 
環境:コーヒー苗木の植林により山の緑が回復。土壌保全効果。

不平等:悪条件の高地の小規模生産者を応援するバリューチェーン開発政策実施。
    自家焙煎店やコーヒー愛好家も現地に来ます。
    
産業:未熟な産業ながら生計の柱として、インフラ整備や技術向上が進展中。

教育:貧困解消とも関わりますが、生計向上により子供を学校に通わせ易くなります。

ジェンダー:生豆選別が女性の雇用機会に。子供の面倒を見ながら仕事が可能。

健康:地元産のコーヒーで健康増進。1日3~4杯を推奨。

平和:特にミンダナオ西部の紛争地域において、反政府ゲリラ→武装解除→社会統合(就業)への進展あり。

パートナーシップ:国境を越えた実施手段の強化。技術や知識の共有。
         詳しいことは、自家焙煎店さんに聞いて下さい。


フェアトレードとの関係
全体的に、農協と農協を取り巻く地域社会が良くなっていることがおわかりいただけたでしょうか。

フェアトレード認証では、コミュニティの中身はブラックボックスです。

私達は、「フェア」とは農民(住民)が勝ち取って行くものであり、それを地域社会でサポートし、またバリューチェーンに関わる人達が関わり作り上げられる状態と考えます。

生産者、行政、輸出、輸入、流通、焙煎、消費、という一連の流れではそれぞれの立場で出来る役割があり少し社会を良くすることがあるかなと考えます。

そのために、生産地と消費者(皆様)を地続きにする活動をしております。

お土産にコーヒーを頂いた方は、是非楽しんで下さい。
Take part in the coffee community!

コメント

  1. PMCEIさま、投稿内容たいへん興味深く拝見いたしました。コーヒーの販路についてなのですが、フィリピン国内の需要はないのでしょうか?例えばマニラなど都市部のコーヒー・ショップ(スタバやレストラン他)などは生産者から直接購入するのでなくとも御社のコーヒーを仕入れたりはしないのでしょうか?

    農村の貧困原因、産業が伸びない理由が高利貸しということもあたりまえなのに改めて驚きました。農民の方々の生活が実際に改善されている状況はすごいと思います。

    それと、乾燥ベッドは竹を利用しないのですか?現地では家屋などにもよく利用されているので、なぜかなと思ったのです。やはり耐久性に欠けるのでしょうか?

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    1. コメントありがとうございます。

      国内の需要は高いです。2016年春先には在庫が余っていましたが、2016年11月のコンテストでマリビックさんの生豆が優勝し、翌年から注文が入るようになりました。以後、PCQC(フィリピンコーヒー品評会)で上位入賞していることが宣伝になり、マニラ、ビサヤ地方からも注文が農協に入ります。

      弊社が営業して販路を作るということはあまり出来ておりません。

      高利貸しは当たり前のようにおります。高利貸しから借りると、1)そこに売らなければならない、2)そこから農薬、肥料などを買わなければならない、と縛られて逃げることが難しくなります・・・。

      竹は耐久性があります。ただし、乗り合いバスの待合所や各世帯の軒下のベンチなどに使用されています。しかし、バンサラン町の高地ではあまり見かけません。竹自体が、周辺地域に少ない印象はあります。

      その他、コミュニティ開発やコーヒーに関することでご関心やご不明点があれば、お気軽にどうぞお尋ね下さい。

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    2. PMEIさま、返信ありがとうございます。なるほど竹はどこでも入手可能というわけでもないのですね。私はフィリピンのココナッツオイルをココウェルという会社から定期購入しているのですが、その会社が現地(レイテ島)の産業起こしのためココナッツの木で新製品を生産しようとしたときココナッツはあまり多様な製品には不向きの素材ということが生産段階でわかり、かわりにマホガニーの製品を生産・販売しています。

      フィリピンはかつて林業なんかもさかんだったのですよね?戦後から60年代ぐらいまでは日本が材木の輸出先No.1だったときいたことがあります。

      マリビックさんたちコーヒー農家の方々は地主や小作農という人たちなのですか?外国の団体と手を組んでコーヒー生産が繁盛していると、農民たちは地主とか高利貸しとかから嫌がらせや妨害は受けたりしませんか?わたしの身近にいるフィリピン人の友人は日本やアメリカに移住した人たちですが、みなよく言います。農家がまっとうな商売をしても地主が嫌がらせしてもっと安値で大量に作物を売って簡単に小さい農家なんか潰されてしまう、と。

      マリビックさんたちのコーヒーが有名になってフィリピン国内の販路も押さえていることを知ってこのコーヒープロジェクトの進展度はすごいと思いました。ですので反対にそういういったことも起こっていないかちょっと心配しています。

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    3. 1.マリビック達は国内の業者への販売が中心で、国内のフィリピン人皆から愛されています。フィリピン在住の外国人からも愛されていますが、やはり国内の方が圧倒的に多数です。

      2.高利貸しからの嫌がらせは、既存の野菜農家にはあります。(高利、販売先の制限、肥料・農薬の購入の義務付け。)しかし、コーヒーは新しい作物で高利貸しとの関係は少ないと言えます。中には、お金がなくて、一旦農地を貸し出して、お金を得て、作物を貸主に渡す人もいますが。高利貸しによる貧困の悪循環からは抜けてきています。

      3.フィリピン人はフレンドリーで、農業省、貿易産業省、カフェなど民間業者、NGOなど、皆仲良くやっています。

      4.台湾の業者、アメリカのバイヤーが「全部買う」と申し出た時、マリビックはNoと回答しました。数量に責任が持てなかったこと、既存の販路があったからです。国内に、既存のバイヤーがおり自立していたことに加え、マーケティングで苦労をして自分の頭で考えることが出来たことが、安請け合いをせず、危険な契約を避けることに繋がりました。

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    4. コーヒーがフィリピン国内の需要の方が高くどんどん知名度が上がっているのはすごいですね。とくに4.の生産者側の農家の人たちに主導権があるのは特筆すべきことだと思います。No!と言える強い生産者でいてもらいたいです。

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  2. コメントありがとうございます。
    バナナやパイナップルでは契約書で縛られ、リスクも労働者側に押し付けられました。そういう状況を見聞きしてきたので、自分たちの意思で決められる農家になってもらいたいなと思っていました。

    台湾のバイヤーにNoと言ったときはホッとしましたし、アメリカのバイヤーにNoと言ったと聞いたときは「やった、やった」と思ったものです。

    別の州で、スターバックスが農園全体の一部と契約するような話も聞いています。契約の内容によっては、一部であるなら契約し、販路を持ち技術力を高めていくことも有りだと考えています。

    フィリピンにお詳しいようですね。今後も意見交換などさせて頂きたいので、宜しければ、FBでKatsuhisa Otaを探してみて下さい。

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